ブナ新緑

いま撮影で道南の黒松内町に来ている。
ここには、日本における「北限の自生ブナ林」がある。
新緑のブナを見たくて、来た。
昨日、今日と天気がよく、日に照らされたブナの若葉が
なんともさわやかに輝き、優しく風に揺れている。
白樺やイタヤカエデなど、その他の広葉樹も一斉に芽吹き、
森の一部は「春もみじ」と言われるほの紅い色合いで
彩られている。
じつに美しい。そして気持ちがいい。
「山、笑う」とは、まさにこのことだ。
でも…。
その新緑が鮮やかであればあるほど、
なぜだか僕は無性に、僕の撮影の本拠地である阿寒の
翳りを帯びたエゾマツ針葉樹林を思い返してしまう。
目の前の萌黄色の風景の向こうに、ここにあるはずも無い
じめっと苔むしたアカエゾマツの倒木などを思い浮かべながら、
ああ、阿寒に撮影に行きたい…などと、
元も子もない思いに囚われてしまうのだ。
見目麗しい森は世に数あれど(この道南のブナの森然り)、
僕はなぜこうも、鮮やかさにはむしろ乏しいあの阿寒の森に
心引かれ続けるのか。自分でも不思議だ。
通い慣れているから、ということだけでは割り切れない
何か特殊な感情が僕のなかにあるのか…。ううん、解らん…。
これは、つくづく、カミさんとの関係によく似ているなぁ
などと思ったりする。本当に不思議なものだ。