南相馬

このあと、かなり長々とした日記を書く。そのまえに、端的に、被災地に来てみての感想とお伝えしたいことを書いておく。
震災発生から1ヶ月半がたつが、ここ南相馬の復興への道のりはまだまだ遠い。南相馬では、明らかに被害の大きさに対してその処理にあたるヒトの数が足りていない。
原発の問題もあるので、常にリスクを自分で背負うことが求められるが、できれば、南相馬にもっとたくさんの人間がボランティアとして足を運んで欲しい。被災者がまともな暮らしをはじめるためにやるべき仕事は、まだまだ山積みのままだ。
途方に暮れる。
多分、南相馬だけのことではないのだろうけれど…。原発から20km圏内など、その様子を想像するだけでさえ、溜め息が出て気がめいる。被災もしていない僕のような人間がめいっていては仕方ないのだけれど…。
人手が必要だ。もし状況が許す人は、南相馬に限らず、ほんの短い間でもいいので被災地へ来て欲しい。

震災から1ヶ月以上たってようやく足を運んだ僕のような人間が偉そうに言えることではないのだけれど…
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朝9時前。南相馬市鹿島区の震災ボランティアセンターへ。
受付をすませ、飲料水などの配給を受け、マッチング(ボランティア参加者を被災者からの支援希望にどう割り振るか)を待つ。
ざっと見渡すと、集まったボランティアスタッフは、20代とおぼしき若者から60代くらいの中高年まで50~60名か。
数日前から参加している人に話をきいたら「おとといあたりはもっと少なかったんですよ。人が増えてよかった」と。
マッチングの結果、僕は、男性6名女性2名からなるチームに配属され、被災者Sさんのお宅の屋外掃除を受け持つことになった。
チームのメンバーの自家用車に分乗し、センターから車で5分程の現場へ向かう。
センターがある国道6号から西側(陸側)の地域は、屋根瓦がはがれた家屋は散見されるものの、津波の被害はまったく見られない。
ガソリンスタンドやコンビニなど沿道の店舗も多くが通常営業を始めているらしく、パッと一見するだけでは、ここが”被災地”だとは気づかない程だ。
しかし、国道から少し東側(海側)に進むと、あるところから沿道の田んぼや畑の様子が変化する。明らかに、本来の土壌とは異なった異質な泥をかぶっているのが分かる。
ほどなく、あり得ない場所にあり得ないものが見え始めた。
田んぼの真ん中に、巨大な流木。海岸線からかなり離れているはずの道ばたに、ひっくりかえった漁船。
あちこちに現れる積み上げられたがれきと木材の山。いったい何十戸の建築物が壊れれば、これだけの廃材が発生するというのか…。
何人もの自衛隊員とすれ違いながらSさん宅へ。到着してすぐに、家屋の壁にくっきりと記された泥跡に気づく。僕の胸の辺りの高さに、一直線に薄茶色い泥のラインが引かれている。水がその高さまで押し寄せたのだ。
家屋のすぐ傍らには、ぺしゃんこにつぶれた納屋。鉄骨の柱がぐにゃりとひしゃげ、屋根の下でトラクターが一台押しつぶされている。
家屋の1階の床は、ほとんどが畳の下の床板まではがされていた。床下の泥をかき出したのだろう。
泥まみれになった家屋内の掃除は女性2名が受け持ち、我々男性陣は、家主さんとともに、ひたすら家屋周辺の掃除を行う。
掃除といっても、ほうきでゴミを掃き集めるなどという生半可なものではない。
庭や立ち木の植え込み、生活排水を流す排水溝など、あたり一面にこびりついた泥まみれの麦わら。散らばる様々な建築資材。
津波にのって周辺の田んぼから土泥とともに一気に押し寄せてきたゴミ。
木々の根元に引っかかるようにして、ハンドバックやペットボトルなど、生活品も多々それに混じる。
それら重たい土泥まみれのゴミを、レーキやフォーク、角スコップでかき集め、一輪車にごっそりと山盛りに積んでは、道の向いのがれき集積所(といっても、もともとは田んぼだ)に捨てにいく。
何度も、何度も、ひたすらそれを繰り返す。
潮の香がまじった泥の臭いが鼻の奥にツンと広がる。「泥、臭いな。もう1ヶ月以上も経ったからなぁ…」とSさん。時折、重労働の手を休めながら、震災当時の様子を教えてくれる。
「土手の向こうの方に野球場がみえるでしょ。あのあたりの地域の避難所に指定されていたので、地震の後、子どもたちが球場に避難したんだ。
でも、川をさかのぼった津波があっという間に土手を越えて球場にも入って。スタンドや得点盤のところにのぼった子は助かったんだけど、グランドにいた子たちは、流されちゃった。
まさかこんな津波が来ると思わないから、“地震のときの対応”として先生方もグランドの真ん中に子どもたちを集めたんだよね。それで…。
でもそれはしかたないよ。あんな凄い津波がくるなんて、だれも思ってなかったもの…。
ほら、(Sさん宅から50mほど離れた田んぼを指差しながら)あのあたりでも、5人くらい(遺体が)見つかったんだよ」。
(つづく)