本当の春

隣の空き地に咲いていたフクジュソウの花は、すでに種子を結んでいる。3色のクロッカスが咲き誇っていたすぐ脇で、主役交代とばかりに、今度はスイセンが黄色い花を揺らす。ぐんぐんと背を伸ばすチューリップの花茎。ムスカリの開花ももうじきだ。
今日も暖かい。西に見える日高山脈は日ごとに残雪を減らし、黒々とした輪郭を次第にあらわにし始めている。
朝、長女と保育所へ向かう道すがら、毎日見るのを楽しみにしているものがある。役場の前に生えた一本立ちのキタコブシだ。
まだ北風が肌寒い頃には、絨毛をまとった黒い芽鱗を硬く閉ざしていたが、それが日に日にふくらみをましてゆき、いつしか日当たりの良い枝先からほころびだした。乳白色の花弁がたおやかに広がり、風にそよぎ、あたりを暖かな春の雰囲気でいっぱいに満たしてゆく。
毎日その変化のようすを見つづけてきた娘。昨日、一昨日ですっかり満開になったそのコブシを見て、今日は一言、「あーあー、もう、本当の春になったねぇ、オトーチャン!」
これから、花が散り、新緑が出、葉が繁り、それがまた散り落ちて、ついには再び裸木に還ってゆくのをみて、その時々に、娘はなんと言うだろう。身近な場所で確かに巡りゆく「本当の」いのちの移ろいの中に、彼女は何を見出すだろう。楽しみだ。