札幌・4日目/新宿写真展9日目

朝食をとりながら叔母といろいろ話す。この叔母はこの20余年ずっとシドニーに住んでおり、そのためなのか、物事の見方がある種「典型的な日本人」と離れたところがある。いわゆる「世間様の目」を過剰に気にしておもねったり、変な謙遜や空威張りなどもせず、「世の常識」というものに自身を明け渡してしまうところがない。なので、とても気持ちよく付き合える人の一人だ。今朝は日本の小学校での英語必修化のことについて、あれこれと意見を交わした。
荷造りを済ませ、叔母に別れを告げて空港へ。これからまた新宿へもどり、写真展会場であと数日を過ごすのだ。千歳空港へ向かうJRの車窓からぼんやりと雪景色を眺める。そして、違う列車に乗りさえすればわずか2時間半ほどでたどり着くはずの我が家で待つ妻と娘二人のことを思う。
昼過ぎに羽田に着いたので、簡単な食事をしたあと恵比寿へ向かった。恵比寿ガーデンプレイスにある「東京都立写真美術館」で開催中の企画展「地球の旅人―新たなネイチャーフォトへの挑戦」を観るためだ。先述のとおり、この展示では、知人の写真家・前川貴行氏と、その他2名の中堅写真家が作品を出展している。前川氏は北米と日本の野生動物を中心としたセレクト。ほかの2名はそれぞれ山岳写真と森林風景写真を中心に構成している。
それにしても、すごい来場者の数だ。ぺンタックスフォーラムも入場者数は多い方なのだが、この「写真美術館(写美)」の規模には到底かなわない。ほんとうに途切れることなく人が展示場へ流れ込んでゆく。写真を趣味にする中年男性の来場が多いペンタックス等のカメラメーカーギャラリーとは違い、恵比寿ガーデンプレイス内という立地柄なのか、若い人の比率が格段に多いのも特徴的だ。
会場入り口で前川さんに会ったので、しばし立ち話をする。今日は館のイベントの一環として、前川さん本人による作品解説があるのだそうだ。作品解説が始まる時間には、僕は自分の写真展会場に戻らなくてはならなかったので、前川さんにそのことを謝し、少し急ぎ足で展示作品を一巡りした。
3者とも長辺1~2m以上の大判プリントを中心に構成した展示で迫力がある。かなり見ごたえのある展示だ。前川さんの作品はもちろん、山岳、森林風景も、それぞれに美しく見ごたえがあった。しかし、考えることもあった。それは、この展示の内容が果たして企画のタイトルどおり「新たなネイチャーフォトへの挑戦」と言い切れるだけの斬新さを持っていたかどうかだ。
それぞれの作家の作品自体はすばらしいと思った。クオリティは高い。しかし、それが本当に「新しい」のかどうか、僕には疑問が残った。特に森林風景の作品群については、自分の関心と重なる部分が多い分余計にその思いが強く残った。文句なく美しいのだけれど…。
その後新宿の会場へ。不在の間の芳名帳を確認すると、たくさんの来場者の名前の中に、以前からお会いしたいと思っていた写真家の方々の名前が。残念。
16:00過ぎに、先日講演会にお招きいただいた鎌倉の中学校のN先生が奥様とご来場。このあいだの講演を聴いての生徒たちの感想文を自宅宛に送っていただいたとの事。中学生たちが僕の話をどのように受け止めてくれたのか、とっても楽しみだ。
また、アラスカ滞在時からいつもお世話になっているHさんと、やはりアラスカつながりのMさんがそろってご来場。それとあわせたかのように、やはり北米(カナダ)でオーロラを中心に撮影されている先輩写真家Sさんも来てくれる。
Sさんと会うのは実に4~5年ぶりくらいだろうか。握手を交わしながら互いの近況を報告しあう。思えば、初めてSさんと会った頃には、僕はまだ何をどう撮りたいのかさえわからぬ半人前以前の状態だった。しかし、そのとき既に科学博物館での展示や大きなスライドイベントなどで大活躍されていた先輩のSさんからいろいろとお話を聞き、それを参考にさせてもらいながら僕はこれまでなんとかやってきた。そのことを思い返すと、いまこうして自分の個展会場で再びSさんと会えていることがとても不思議なことのように思えるし、一方で、なんとも嬉しい。
Sさんと談笑していると、Hさんと一緒に来ていたMさんが「あれ、Sさん?!」と声を掛けてきた。どうやらMさんも、Sさんとは旧知の仲らしい。世の中は狭いものだ。新宿副都心の一角で、北米つながりの個人的再会がこんな風になされるとは。
Sさんの話では、同じ新宿の別の写真ギャラリーで、Sさん、Mさん、Hさん共に交流のある写真家の展示がいま行われているのだという。その題材もアラスカを中心とした北米の野生生物なのだそう。そしてSさんもまた、後日その同じ会場で個展をするという。
前川さんの写真展も含め、北米(アラスカ、カナダ)にゆかりのある写真家たちが東京で同じ時期に展示をしている。面白いものだ。そして、それぞれがどこかで互いに知り合っていることがまた面白い。
閉館後、デパートの地下食料品売り場でフルーツを買い、それを手土産に、いつも世話になっているF社のUさん宅へ。今夜はUさん主催のホームパーティーだ。Uさんの友人15名ほどが、すでに赤ら顔をして盛り上がっていた。前川さんも自分の展示を終えて駆けつけていた。
ピアノ、バイオリン、フルートなど、Uさんの友人たちによる贅沢なライブ演奏が繰り広げられる。Uさんの仲間関係は、職業も特技も経験も本当に多彩で、お話を聞いているだけでなんだか豊かな気持ちになれる。
僕は、おいしいワインとゆったりとした音楽に身をゆだねながら、程よい疲労感と共にここ数日間の出来事を思い返していた。
人と会うということ、繋がるということ、その喜び。しかしその喜びは、決して未来永劫に続くものではないということ。我々にはどうすることもできないその冷徹な事実の存在を、僕らは日々着実に経験を通して学んでゆく。それが生きてゆくということなのか…。
そんなことをぼんやり考えていると、僕の脳裏に北海道十勝のいとおしく安らぎに満ちた風景が否応なく思い起こされてきた。そして、それが安らぎに満ちているがゆえに、胸がちくりと痛くなってきて困った。