不定期日記

目の前に現れたのは……

日が暮れてからの1時間あまり、撮影地へ向けて道東の田舎の国道を車ではしりました。(ほとんどが山沿いの道)
 
すれ違う車はほとんどありませんでしたが、その代わりに今日は、道を行くぼくの車のヘッドライトの前を横切っていく動物がいつになくたくさんいました。
 
以下、この小一時間で実際に出会った動物たちです。気づくことができなかったのもいたかもしれませんが、小さいところから紹介すると……
 
■種別不明の羽虫。いよいよ羽虫がブンブン飛び交う季節になったのですね。「横切る」というよりは、ヘッドライトの明かりに向かって突っ込んでくると言ったほうがよいでしょうか。つまりは、ぶつかっちゃうわけです。ごめんね、羽虫たち……
 
■おや、路面をものすごいスピードで駆け抜けていく、体調10センチくらいのチビ助が。ノネズミですね。アカネズミかな。なんだろう。足、早いな。
 
■ふわふわの長いしっぽと、すっと尖った鼻筋のシルエットが、白っぽくヘッドライトに浮かび上がりました。そう、おなじみキタキツネです。まだ冬毛だな。……と思ってしばらく走ると、今度は黒っぽい毛のずんぐりむっくりのが現れた。タヌキ。やっぱりまだモコモコとした冬毛。まだ寒いものね。
 
■次は、車の前を横切るというよりも、堂々と道の真ん中に突っ立てるヤツがいます。すっとんきょうな顔をした、細くて長いくちばしと足の鳥。オオジシギです。車が近づくと、ばたばたっと飛びさりました。

ああ、そうだよな。もうオオジシギが“あの”派手なディスプレイ飛行をする季節だよな。みなさん、知ってます? オオジシギのディスプレイ飛行。是非動画検索でもして見てください。

「ずびーちぇく、ずびやーく、ずびーちぇく、じぇじぇじぇじぇじぇじぇ」と鳴いて、シュゴゴゴゴー! ジェット戦闘機のエンジン音と聞きまごうほどの風切り音を轟かせながら草原の上空を駆け巡るんです。でもオオジシギは1羽100億円もしません。もちろんステルス性能など持ち合わせず、逃げも隠れもせんよ。誰も傷つけず、ただ愛のために飛びます。おっとついまた余計な話を。
 
■突然、目の前をふわーーーーっと大きな鳥が羽を広げて滑空し、川沿いの林の木立の中へ消えていきました。周りがもう薄暗くて特徴が詳細には掴めなかったのですが、ずいぶん大きい鳥で、ずんぐりした躯体、尾翼は短い。これはワシやトンビのシルエットではないな。もしかして……シマフクロウか……。十勝で自然繁殖してんのかな…?
 
■そして、いまとにかくこの国道沿いで一番多く出てくる動物は、エゾシカ。100m走れば5〜10頭くらいのシカの群れに次々遭遇。国道沿いの木立やのり面に、シカたちの目がいくつもいくつも鈍く光ります。で、時々、よせばいいのに車の前に飛び出してくるヤツもいます。その度に、危ない!ブレーキ! でも、一頭が車の前を横切り終わったからといってすぐに安心してアクセルを踏んではだめ。その先頭個体のお尻の跡を追うようにして後ろが続いて飛び出してきますから。大きいものは体重100kg超。ぶつかったら大変です。
 
■おや、また何か大きな獣が目の前を横切りました。危うくぶつかりそうな距離感。でも……形も色も、明らかにシカじゃない。ずんぐりと真っ黒い獣が、3頭。

ふむ。2頭は小さい。1頭は大きい。あらら、ヒグマの親子だ。

このチビ2頭は、大きさからして、たぶん今年巣の中で生まれた仔っこだな。かわいい! でも、クマだよ、熊。さすがにぼくも不意の遭遇にびっくりして急ブレーキを踏み、一気にスローダウン。

すると、すでにのり面を駆け上がって逃げようとしていた母さんグマが急にくるりと振り向いて、こちらに突進してくる構えを見せました。

(その時こちらに向かって大きな咆哮をあげていたようなのですが、ぼくはちょうどカーステレオでスピッツの「夏の魔物」を大音量で聴いていたので、母さん熊の叫びは聞こえず…😅)

そうです、この時期のヒグマの母さんは、とにかく何はさておいても子どもを守るのです。相手が自動車だろうとなんだろうと。

「ごめんごめん、君たちに危害を加える気はないよ」。ぼくは、できることならクマ親子をもうすこしだけ観察したいという危ない欲求をぐっとこらえて、素早くアクセルを踏み込むと、その場を早々に離れました。そしてそれを見たクマたちも、一目散にのり面をかけ上がり、あっという間に森の暗がりに消えてゆきました。こぐま、こぐま、逃げろよこぐま。
 
ちょっとびっくりどっきりの、ほんの一瞬の「クマとの遭遇」でした。
 
 
でも、このときふとぼくは、ああそうなのだ、勘違いしちゃいけないのだ、と静かに胸の中で自戒しました。
 
この1時間あまりでぼくが経験したことを正確に言葉にするなら、〈国道を行くぼくの車の前に、不意にたくさんの動物たちが現れた〉のではないのかもしれません。
 
それは、〈大地を行くたくさんの動物たちの前に、車に乗ったぼくが不意に現れた〉というべきなのかも。
 
ついついこういう勘違いしがちです。もう少し謙虚に、丁寧に、人間の道を行きたい、と思いました。

 
今日はこの辺で。お休みなさい。みなさんいい夢を。


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