8月25日(日)は、行ってきましたよ、オホーツク興部町! 町図書館で講演会でした。
以前ここで写真絵本作りWSをさせていただいたのは、かれこれ8−9年前でしょうか。当時と変わらぬ街並みと、変わらぬレンガ色の図書館。なんだか嬉しいなぁ。そして、いつもお世話になっている職員のOさんも、ちっとも変わらない! ずっと変わらず南果歩。すてき。
講演のテーマは「写真絵本作家が考える撮影・表現・自然」。
主催者(図書館)のアイデアで「今回は、写真撮影そのものに関心のある方々も対象にし、参加者が地域の魅力を再発見するきっかけになるような講演内容にしましょう」ということに。
普段各地でよくおこなっている著作写真絵本の読み聞かせ&関連トークを中心として「絵本寄り」の講演ではなく、少し「写真寄り」の内容にしました。
ただしそうはいっても、撮影技術論などのハウツー的な話はほとんど無し(若干、使用機材の紹介をした程度)。
もっぱら、ぼくがどんな動機や心持ちでシャッターを切るのか、何をどう他者に伝えたいと思っているのか、などなど、一カメラマン/作家としての「内面」をご紹介するような内容でした。
講演の最後には、「特別な物事や風景の中ばかりではなく、むしろ当たり前の日常の中にこそ、こころ動く美しいものが潜んでいるかもしれません。ぜひそういうものも積極的に写真に収めてくださいね」というようなことをお伝えしました。
極めて個人的で、観念的・主観的な話もたくさんしたのですが、上は中高年のご夫婦から下は幼児まで、老若男女のみなさん、耳を傾けてくださいました。みなさん、ありがとうございました!
今後、興部のみなさんが地域を見つめる際の何かの参考にしていただけたら嬉しいです。
–––––––と、講演後、そんな思いを抱きながら機材の片付けをしていたら、母+息子4人でご参加いただいていたY家の小学生のおにいちゃんが、たたたっと会場に駆け戻ってきました。で、ぼくに言います。「みつけた」。
え、みつけたって、何を?
おにいちゃんに促されて会場の外の大きな窓から外を覗いてみると、窓下にはコンクリ敷きの殺風景な図書館1階の屋上がただ広々と見えるばかり(講演会場は2階にありましたので)。さらにその向こうには、オホーツク海へと続く興部の家並みと、薄曇りの空が。
え、みつけたって、何が…?
「ほら、ここ」。おにいちゃんが指差します。もっと下をみろ、と。大きな窓の下端。灰色のコンクリ屋根とアルミ窓枠のちょうど際の部分。わずかな隙間。
あぁ! あった!
そこに、たしかにありました。いや、そこに居ました。たった一株だけ、細くひょろひょろと、草が。
多分、アカバナの仲間。わずかに2−3輪の小さな花が咲き残ってはいましたが、個体全体としてはもう花期を終えたようで、ぱかっと裂け開いた細長い蒴果(子房)からはすでにたくさんの綿毛付き種子が放たれた後でした。
そんなアカバナが、殺風景な屋上の、わずかなコンクリの隙間に、たった一株。どこからか風に乗ってここにたどり着いたのでしょうね。
すでに花期を終え、色あせ、枯れつつある草です。花も葉も蒴果も全く目立ちません。よしんば誰かの視界にこのアカバナの姿が映ったとしても、それに気をとめ、意識的にそれを視る人は、たぶんほとんどいないでしょう。
でも、おにいちゃんはみつけました。アカバナと出会いました。
ぼくはすかさず「よし、お母ちゃんのスマホを借りて、写真を撮るんだ!」と促しました。そして、おにいちゃんが撮影したアカバナの写真の、ああ、なんと味わい深いこと。
縦位置。アカバナはぐっと画面下部に寄せて配置され、その向こうに殺風景な灰色の屋上と、しかし、さらのその向こうには、オホーツク海へとつづく薄曇りの空。
まるで、遠い空に向け、海風の中に綿毛を解き放ったアカバナの“気持ち”を表現しているかのような、とっても味わい深い構図です。
うーーーーん。
予期せず、講座の片付けもすまぬうちに、ぼくは見せつけられたのです。受講者自らの「撮影・表現・自然」を。
はっきりいって、至福でありました。おにいちゃん、ありがとう。また会おう。