『さっぽろ野鳥観察手帖 SAPPORO BIRD GUIDE』
河井大輔・著/亜璃西社・刊
https://www.alicesha.co.jp/books/0208/index.html
何よりもまず先に目を惹き付けられるのが、上品なつやけしのまっ赤な表紙と、そこに配置された端正で美しいキセキレイの写真。シンプルでありながら大変鮮烈なビジュアルです。そして、表紙をめくってすぐに現れるカバー袖のコピーには「ページをめくるたびに出逢える、札幌の美しい野鳥123種」。
それらを見れば、なるほど、著者や発行者が本書を通じて読者に届けよう・伝えようとしていることが、野鳥の観察や種別同定のための精緻でマニアックな情報やノウハウというよりはむしろ、「美しさを味わうこと」を含む野鳥観察の〈感性的な愉しみ〉なのだと想像できます。
そして、「まえがき」を経ていよいよ本編へとページを開き進めば、製作者陣の「美しさ」「愉しみ」へのこだわりが並々ならぬものであることが、一目瞭然に明らかになります。
もうとにかくね、この本、鳥たちの写真とその見せ方がとても〈美しい〉んだ。
基本的に本書は「観察のための手帖=ハンドブック」ですから、きっと、掲載されている写真はどれも図鑑写真に求められる要素(当該種の平均的な容姿や特徴を過不足なく捉えていることなど)をきちんと備えていることを大前提としてセレクトされているはず。ただ単に「色合いがキレイで映える!雰囲気がゆるふわでカワイイ!」とか「構図がアーティスティックでエモい!」という写真では、到底用が足りません。いわゆる「芸術写真集」ではないのですから。
それでもなお、本書の鳥たちは、じつに美しく読者の前に姿を現します。写真を眺めるだけでもとっても幸せな気分になれます。目が喜ぶんです。
また、「読者に〈愉しみ〉を」というコンセプトは、写真に添えられたテキス トにも現れています。
それぞれの鳥種のページには、学名・漢字名・中国名・英名・アイヌ語名(!)や分布地、鳴声の擬音表記などの基礎的データ、簡潔で解りやすい「見分けポイント注釈」に加えて、著者・河井氏による解説文がついているのですが、親しみやすい比喩表現や軽妙で砕けた語調を織り交ぜて書かれたそれは、ちょっとしたショートエッセイの趣すら醸しています。
ビジュアルから、テキストから、著者自身の“鳥愛”、〈鳥を愉しむ心持ち〉がじわじわと伝わってきます。
「あとがき」には河井氏のこんな思いが書かれていました。
“バードウオッチングとは〈略〉目を吊り上げて鳥を追いかけまわすようなものではないと思います。出逢いの予感に胸をときめかせた、シンプルでおだやかな散策。そこで目にした鳥たちは、きっと日々の暮らしにかけがえのない潤いと彩りをそえてくれることでしょう。”
本書がカバーする野鳥観察範囲が「札幌」という一地方都市に限定されているのも、まさに「愉しく美しい世界はわたしの/あなたのすぐ“足元”にある」という著者の思想を体現しているのだな、と思いました。
もしあなたが身近な書店で、まっ赤な表紙の美しい小本に出逢ったのなら、ぜひ手にとってじっくり“観察”してみてください。きっと愉しい心持ちになって、ぴゅーっと一つ口笛でも囀りたくなりますよ。